Bruton’s tyrosine kinase (BTK) 阻害剤であるイブルチニブは、ヒトの慢性リンパ性白血病およびマントル細胞リンパ腫の治療に有効である。最近のデータでは、イブルチニブがヒトの好塩基球(BA)およびマスト細胞(MC)におけるIgE依存性の活性化およびヒスタミン放出も阻害することが示されている。本研究の目的は、イヌの肥満細胞腫(MCT)において、BTKが新たな治療標的となるかどうかを調べることである。イブルチニブは、2つのイヌMC株(C2およびNI-1)、およびイヌMCTから得られた初代MC(n = 3)に対する効果を評価した。フローサイトメトリーを用いて、イブルチニブが両MC株においてBTKのリン酸化と下流のSTAT5のリン酸化を抑制することを確認した。さらに、イブルチニブは新生物であるMCの増殖を抑制し、IC50値は初代MCT細胞では0.1~1μM、C2細胞およびNI-1細胞では1~3μMであった。C2細胞では、「イブルチニブ+ミドスタウリン」の組み合わせで、相乗的な増殖抑制効果が得られた。また、高濃度では、両MC株において、イブルチニブがアポトーシスを誘導した。最後に、イブルチニブは初代MCT細胞におけるIgE依存性のヒスタミン放出を抑制することがわかり、IC50値はNI-1細胞では0.05~0.1μM、初代MCT細胞では0.05~1μMであった。以上のことから、イブルチニブは、犬の腫瘍性MCsにおいて抗増殖作用を示し、IgE依存性のヒスタミン放出を抑制することがわかった。これらのデータに基づいて、イブルチニブは犬のMCTの治療のための新しい治療薬として考えられる。犬のMCT患者におけるBTK阻害の価値は、臨床試験で明らかにされるべきである。