皮膚肥満細胞腫(MCT)はイヌの悪性皮膚腫瘍の中で最も頻度の高い疾患である。癌原遺伝子であるc-KITの変異は、MCTの病因および侵襲性と相関している。これまでの研究では、c-KITの変異とKITタンパク質の局在に焦点が当てられており、mRNAレベルの解析はほとんど行われていなかった。本研究では、RNA in situ hybridization(RNA-ISH)により、犬のMCTにおけるc-KITのmRNAの発現を調べた。さらに、c-KIT mRNAの発現と、組織学的グレード、KIT免疫組織化学染色パターン、その他の臨床病理学的パラメータとの関連を評価した。c-KIT mRNAの発現は、すべてのMCTサンプルで観察され、新生物細胞の細胞質内にドットの集まりとして現れた。c-KIT mRNAの発現(Hスコアと陽性細胞の割合により定量化)と組織学的悪性度(2段階および3段階の悪性度分類システムにより判定)の間には、有意な相関関係が認められた。また、c-KIT mRNAの発現と増殖指標(mitotic index、Ki-67、Ag67)との間には、有意な正の相関関係が認められた(いずれもP < 0.05)。しかし、KITの染色パターンの違いに関しては、RNA-ISHによるc-KITの発現との有意な関連は認められなかった。以上の結果から、c-KIT mRNAの発現は、犬の皮膚MCTにおけるc-KITの状態を測定するための追加ツールとなり、潜在的な予後因子として機能する可能性があることが示された。さらなる研究では、犬のMCTの大規模かつ均一なコホートにおいて、c-KIT mRNA発現の予後的意義を評価する必要がある。