高コルチゾール血症は、犬の約15%〜20%の症例でコルチゾールを分泌する副腎皮質腫瘍(ACT)によって引き起こされる。どのような分子マーカーが犬のACTの悪性挙動と関連しているかについては、ほとんど知られていない。本研究の目的は、予後予測の精緻化や潜在的な治療標的の特定に有用な予後の分子マーカーを特定することである。コルチゾールを分泌するACTは、フォローアップ情報が得られた40頭の犬から抽出された。ACTは、新しい病理組織学的Utrechtスコアに基づいて、再発リスクの低い腫瘍(LRT; n = 14)または中程度から高い再発リスクの腫瘍(MHRT; n = 26)に分類された。正常な副腎(NA)は11頭の健康な犬から採取したものを参照材料とした。14の候補遺伝子のmRNAの発現を、40のACTと11のNAにおいて定量的RT-PCRで分析した。これらの遺伝子の発現レベルを、NA、LRT、MHRTの間で統計的に比較した。単変量解析および多変量解析を行い、遺伝子の発現量と生存率との関連性を調べた。7つの遺伝子がNAとACTの間で発現が異なり、そのうち、pituitary tumour-transforming gen-1(PTTG1)とtopoisomerase II alpha(TOP2A)は、LRTとMHRTの間でも発現が異なっていた。生存率の解析では、Steroidogenic factor-1(SF-1)、PTTG1、TOP2Aの高い発現レベルが生存率の低下と有意に関連していた。結論として、我々は犬のACTにおいて、悪性腫瘍の分子シグネチャーの一部であるいくつかの遺伝子を同定した。これらの知見は、予後予測の精緻化に利用できるだけでなく、今後の投薬可能な標的に関する研究にも示唆を与えるものである。