癌の進行における全身性炎症の役割は、特にヒトのメラノーマにおいて広く研究されている。治療前の白血球数と比率は、いくつかの種類の悪性腫瘍において予後に影響することが認められているが、犬の口腔内悪性黒色腫(COMM)に関しては情報がない。この探索的なレトロスペクティブ研究の目的は、外科的切除およびアジュバントCSPG4抗原電気泳動による免疫療法を受けた口腔悪性黒色腫の犬において、治療前の好中球/リンパ球(NLR)およびリンパ球/単球(LMR)比が予後に与える影響を調べることである。組織学的に口腔内悪性黒色腫が確認され、初回治療の最大60日前に行われた治療前の血液学的分析が可能な39頭の犬をレトロスペクティブに登録した。NLRおよびLMRと、年齢、臨床病期、腫瘍の色素沈着、腫瘍の大きさ、核異型度、分裂指数、Ki67、CSPG4の発現、潰瘍形成、骨浸潤、切除断端の状態との間に考えられる相関関係を探るため、統計解析を行った。NLRとLMRが全生存期間(OST)に与える影響について、様々な比率のカットオフ値と異なる時点でのKaplan-Meier法を用いて検討した。白血球比率と組織学的パラメータ、CSPG4の発現、切除断端の状態、年齢、腫瘍の大きさ、臨床病期との間に有意な関係は認められなかった。NLRとLMRは、全集団の生存期間に予後的な影響を示さなかった。治療前の白血球比率は、口腔内メラノーマの犬において、特に遠隔転移がない場合には、有用な予後因子とはならない可能性がある。